原則課税と簡易課税はどちらが有利か
消費税法上、前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下だった場合、原則課税と簡易課税を選択することができます。
それぞれの内容は理解されている前提で、どちらを選択するのか有利なのかを考えてみたいと思います。
・仕入率からの見解
原則課税で計算した場合の「課税仕入の課税売上に対する割合」(私は課税仕入率と呼んでいます)が、みなし仕入率より高いか低いかで判断します。
課税仕入率>みなし仕入率なら「原則有利」、逆なら「簡易有利」ですね。
基本的には選択対象となる課税期間の前年の数字をベースに判断しますが、今後の売上の変動や、設備投資予定の有無なども考慮に入れる必要がありますね。
一番一般的な判断方法だと思いますし、私も基本はこの考え方になると思います。
・最大リターンからの見解
原則課税を選択した場合に、簡易課税を選択した場合と比較して、最大でどれだけ納税額が少なくなる(あるいは還付額が増える)か。
まず簡易が一番有利になるのは、原則で計算した場合の課税仕入がゼロの時です。この場合、簡易選択時の仕入税額控除額である「課税売上高×みなし仕入率」に税率をかけた金額が、簡易選択による益税となります。これが最大ですね。例えば、売上5,000万円で第1種事業だと5,000万円×90%×8%=360万円です。
一方、原則を選択した場合はどうかというと、これは無限です。原則選択時の課税仕入額には上限はないので。理論上は億もありえるし兆もありえるかもしれない。原則で計算すればどれだけ多額の還付を受けられるような状況だとしても、簡易では一切還付を受けられないのは大きなデメリットだと思います。
よって、最大リターンは原則のほうが大きいということになります。この視点では原則が有利と言えます。
・継続適用期間による見解
簡易課税制度選択届出書を出して簡易課税になると、原則2年間は原則に戻ることができません。
なので、まだ届出を出していない状況であれば、出さずに原則を取れば1年後にまた選択できるけど、出して簡易にしてしまうと2年後まで再選択ができない。なので、原則のほうが動きやすくなると言えます。
既に届出提出済で簡易を適用しているという状況であれば、これは考える必要はなくなります。
・税務調査からの見解
税務調査で否認された場合、どちらが追徴課税を課されるリスクが高いかという見解です。
まず原則だと、売上漏れが指摘された場合、追加の売上に対する税額が丸々課税され、課税仕入となっている経費が否認された場合、否認された経費に対する税額が丸々課税されます。
一方簡易を選択していると、経費が否認されても税額に影響を与えないので追徴課税されないという点が大きいと思います。また売上が不足していたとしても、課税売上が加算されると同時に、売上×みなし仕入率分の仕入税額控除を取れるため、原則に比べて、追徴課税される税額は少なくなります。
以上より、調査で否認された場合のリスクは簡易のほうが低いと言えます。そもそも否認されないように処理していくのが大前提だとは思いますが、一応こういった考え方もできるのではないかと思います。
・税務調査からの見解(税務署編)
上記のように調査の視点で見ると簡易のほうがリスクが低いと思われますが、逆に税務署から見ると、簡易のほうが追徴課税を取れる可能性が低い、言うなればリターンの期待値が低いということになります。
なので、もしかしたら原則のほうが調査の対象になりやすかったりして?なんてことを考えたりします。納税者側から見れば、簡易のほうが調査が来る可能性が低いということですね。
あまり関係なさそうな気はしますが、1つの仮説としては面白いんじゃないかなと思います。
・結論
後半で調査の視点も出してみましたが、やはり基本的にはシミュレーションして有利な方を選択、迷ったら原則というのが無難だと思います。
以上、原則課税と簡易課税に関する見解でした。