定額給付と公平性

前回の続きもまだ書いていないところですが、タイムリーな話題ですので、今回はこちらの記事を挙げさせていただきます。

表題の通り、10万円給付の件です。「年齢や所得で区切るのは不公平なのでは?」というのは当然の意見ですが、では「国民全員に10万円給付されたら公平なのでしょうか?」

結論から書きますと、一般的に感じるであろう公平の考え方からすれば、公平ではないと思います。なぜでしょうか?

 

本質は富の移転である

そもそも10万円給付するといっても、財源は税金です。国債発行とか他にもあるかもしれませんが、今回は税金が財源であると仮定しましょう。だとすると、今回10万円を給付することにより、後で課される税金が増えると考えられます。税金にもいろんな種類がありますが、ここでは仮に全額を「所得税」で回収すると考えましょう。

わかりやすく国民1億人として、10万円ずつ給付すると、総額10兆円が必要になります。これを所得税で回収するとなった場合に、1億人全員が10万円を納税するか?といったらそうではありません。所得がない人は納税なしになる一方で、高額所得者は20万、30万、中には100万以上負担するような人もいるでしょう。

ということは、のちの所得税での回収までをトータルで考えると、所得がない人は10万円もらって1円も払わないので、ただ10万円をもらうことになる。一方で、高額所得者は10万円もらえるけど後で20万円納税させられて実質10万円のマイナス、ということになるわけです。

つまり、国民全員への定額給付というのは、単に「高額所得者から低額所得者への富の移転に過ぎない」ということになります。

高額所得者は一律給付でも損するのに、支給対象すらも外されると考えるとなかなかに酷い話です。先ほどの例で言えば、1円ももらえず20万円納税させられて実質20万円のマイナスです。これは酷い。

 

所得制限により得をするのは実は…

このように、所得制限などを設けて支給対象を絞ることで、高額所得者はさらに損をするわけですが、実はそうとも言い切れない場合があります。

先ほど「1円ももらえず20万円納税させられて実質20万円のマイナス」と書きました。しかし、これは誤りです。

なぜならば、国民全員に給付するから10兆円必要なわけです。でも、もし支給対象が全国民の3割だったとしたら、財源は3兆円でいいわけですよね。税金で回収する金額が3兆円でよくなるわけですから、全員給付の場合と比べ、税負担は3割でよくなります。

ということは、先ほど20万円納税した人は、6万円の納税でよくなる。1円ももらえないけど6万円納税させられて実質6万円のマイナスです。損してることに変わりはないけど、全員給付だったら実質10万円のマイナスだったことを考えれば、こちらのほうがマシだと言えます。

このように、納税額がかなり多い人は、支給対象から外されたとしても、それ以上に税額が減るため、全員支給の場合よりむしろ得をする場合があるということです。今回は20万円納税の人で書きましたが、100万円の人だったら税負担が70万円減るのでもっと得をします。いや、得と言うのはさすがに語弊がありますね。損をする金額が減ると言ったほうが正しいかもしれません。

 

弱者救済か、強者救済か

ということで、超高額所得者にとっては、むしろ支給対象が絞られたほうがよいことがわかりました。でも、得をする人がいれば損をする人もいるのが世の仕組みです。誰が損を被っているかといえば、中流層です。

10万円もらって、後で10万円納税するような損得なしの人。こういう人が対象から外されると、1円ももらえず3万円納税して3万円のマイナスとなり、全員支給の場合より損をすることになります。

支給対象が絞られると、外された全員が損をしているようなイメージを持ちますが、実はそうとは限りません。支給対象を絞ることで超高額所得者の負担が減ることを鑑みれば、今回の決定は「弱者救済」と見せかけて、実は「強者救済」だったという見方もできます。

損が減っているだけで得をしているわけではないので救済というのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、政治家も含め大きな声を持っているのは基本的に超高額所得者ですから、給付をして弱者救済を見せつつも自己負担を極力減らすという観点で支給対象を絞っている可能性は大いにあります。

さらに言えば、今の復興特別所得税のように、例えば向こう30年にわたって回収するようなスタンスを取った場合、数年で現役引退して所得がなくなるような人はほとんど負担しなくて済む一方で、今まさに社会人になりたてのような人は現役の間ほぼずっと負担を強いられます。そう考えると「高齢者優遇」「若者に負担を押し付ける」政策とも取れます。

そもそも高額所得者は毎年高額納税して社会に貢献してますので、負担が軽減されていたとしても全然悪いことではないのですが、少なくともこのやり方では実は負担が軽減されているなんて実感を持つ人はほぼ皆無で、ただ外されたという悪いイメージを持つ人がほとんどでしょう。

たまたまそうなっているだけなのか、どこまでが狙いなのかは定かではありませんが、本件に限らず、政策として実はいいことをやっていたとしても、説明がないばかりに不満が残ることが多いのはもったいないなと感じます。ただ、私たちとしても、ただ額面通り受け取るのではなく、本質を考えるということは常に意識しなければいけないですね。そもそもメディアが正しく報道してくれるかどうかは疑問ですし…。

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