手取り契約と法人成

今年は確定申告と決算に加え、相続案件もちらほらあったりして、すっかりブログがご無沙汰になってしまいました。今回はひさしぶりということもありますので、がっつり税務の話をさせていただこうと思います。

個人事業主が業務を行うと、一般的に報酬から源泉所得税が差し引かれて支払われます。具体的な数字を出すと、100,000円の報酬を受けると、源泉所得税として10,210円が差し引かれ、差額89,790円が支払われるという仕組みです。差し引かれる源泉所得税額の差異はありますが、給与と仕組みは同じですね。

手取りが89,790円なので、それが実質の報酬であるような感覚を受けますが、もし他に収入がなかったとすれば、確定申告すれば税額ゼロとなり10,210円が丸々還付されると考えれば、実質的な報酬はあくまで源泉所得税を差し引く前の10万円です。

法人を設立すると?

このような個人事業主が法人を設立し、法人で仕事を受けるようになるとどうなるか。法人は源泉所得税を引かれないので、10万円がそのまま支払われます。ただし源泉所得税を引かれていないぶん、最終的な税額がゼロだったとしても還付はされませんし、税額が出れば後で全額納めることになります。

所得税と法人税のどちらが有利かなどは今回のテーマではないので置いといて「そもそもの報酬自体は個人だろうが法人だろうが10万円で変わらない」というのが大前提になります。当然と言えば当然の話ですよね。

※源泉所得税は消費税込の金額に税率をかける場合と消費税抜の金額に税率をかける場合がありますが、本記事では簡便にするため、すべて消費税込で記述しております。

手取り契約とは

しかし、この前提が覆るケースがあります。それが「手取り契約」というものをしていた場合です。

一般的には、10万円で業務委託を受けるのであれば「源泉所得税を引く前の金額で10万円」という契約になりますが、たまに「源泉所得税を引いた後の金額で10万円」という契約を結ぶケースがあります。あまり見る契約ではないのですが、業界によってはそれがスタンダードだったりする場合もあるようです。

手取り10万円の場合、源泉所得税は逆算で計算して11,370円となり、実質的な報酬は111,370円となります。手取り契約じゃない場合と比べて10%以上得していることになり、非常に大きな違いがあります。

手取り契約の罠

では、手取り契約を結んでいる場合に、法人になるとどうなるでしょうか?

法人の場合、源泉所得税が引かれないので、手取り10万円なら実質的な報酬も10万円です。つまり、個人事業主の時よりも実質的な報酬が10%以上下がることになってしまいます。

もちろん、これを見越して「法人になるから手取り自体を増やしてもらう」という交渉ができれば問題ありません。しかしそういったことができない場合、法人になることで大きく損をしてしまう可能性があります。

私が開業する前の話ですが、あるバンドがコンサートを行う際に、主催者が各バンドメンバーに出演料として「手取り10万」を支払うようなケースを見たことがあります。この場合、実質的には「個人として仕事を受けているメンバーは111,370円、法人として仕事を受けているメンバーは100,000円の報酬」が発生しています。均等であるように見えて、明らかに法人のメンバーが安くなっているのです。

もちろん法人にすることでさまざまなメリットはありますが、報酬が実質1割減になること(金額によってはもっと減る場合もあります)をカバーできるだけのメリットを出せるかと言われると、正直出せないことのほうが多いように思います。

結論として、このような「手取り契約」を結んでいる場合、特にそういった慣習がある業界に身を置いている場合は、法人成を慎重に検討しないと大損してしまう場合があるので、注意が必要です。

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