ブラック企業潰し

国民には間違いなく、国を変えられる力があります。
選挙が近いので、今回は熱く政治について語る…わけもなく、就労をテーマにして、少し変化球な話をしたいと思います。

 

さて、就労と言われると、みなさまはどのようなことを考えるでしょうか。いろんな意見はあるでしょうが、おそらく誰でも思うことがこれでしょう。

 「ブラック企業に入りたくない」

何をもってブラックと感じるかは人によると思いますが、自分にとってつらい環境がブラックだと定義すれば、就労に関する問題は、概ねここに集約されます。では、ブラック企業に入らないために重要なことはなんでしょうか?

 

ブラック企業を見極める力を養うことでしょうか。

ブラック企業に入らなくて済むよう、己の能力を高めることでしょうか。

否。

最善の答えは間違いなく。

--ブラック企業を潰すことです。

 

発想を転換する

そもそもブラック企業があるという前提に立つのがおかしい。非人道的な行為をしているのがブラック企業なのですから、本来存在を許してはいけないのです。

ブラック企業が世の中になければ、どうやって見極めるかなんて悩むことすらない。ブラックかホワイトかなんて気にせず、ただやりたいことが実現できる勤務先を選ぶことができる。これが理想的な環境だと思います。

でも現実問題、ブラック企業は世にはびこっている。なぜでしょうか?

  

ブラック企業はなぜなくならないのか?

ブラック企業と言えば、どの会社が思い浮かぶでしょうか?
10秒ほど考えてみてください。

 

ありがとうございます。
では、ひとつ問いかけます。

--その会社は、今も残っているでしょうか?

 

おそらく「残っている」という答えがほとんどだと思います。あれほどブラックさが白日の下にさらされても、倒産しない。なぜでしょうか?

就職難で、なんだかんだ従業員が転職せず、採用もできてしまうからでしょうか。それもあるかもしれませんが、最大の理由は間違いなく、消費者が利用するのをやめないからです。

売上が下がれば、赤字が出続ければ会社は勝手に潰れます。でもそうはならない。それどころか悪い印象があるところほど、どんどん拡大しているような印象さえあります。同業他社だってあるんだし、わざわざブラックなところを使わず、他のところを使えばいいのではないでしょうか。なぜこんなことになってしまうのでしょうか?

ひとつは、消費者側に立つと自分が勤めてるわけではないので、その会社がブラックだろうと自分が不利益を受けているわけではなく、他人事だからというのがあると思います。しかし、事はそれほど単純ではありません。

 

ブラック店の野望

昔々あるところに、ホワイトな飲食店がありました。
お店の1か月の業績は、このようになっていました。

 売上  500万円
 原価  150万円(原価率30%)
 人件費 150万円
 他経費 100万円
 利益  100万円

正当な人件費を支払いながら、きちんと利益も出している、いいお店です。

 

ある日、ブラックな飲食店が出店してきました。

 売上  500万円
 原価  150万円(原価率30%)
 人件費 100万円
 他経費 100万円
 利益  150万円

人件費を不当に減らすことで利益をもっと出そうという算段です。しかし、そうはうまくいかないのがビジネスというもの。人件費を圧縮したことで従業員のモチベーションが低下し、どうやらお店の雰囲気もホワイト店のほうがよさそうです。

 売上  200万円
 原価   60万円(原価率30%)
 人件費 100万円
 他経費 100万円
 利益  △60万円

--客足が伸びず、赤字になってしまいました。

 

しかし、悪知恵の働く店長は、こんなことを考えます。

「客足が伸びなかったのは、ホワイト店と差別化できるポイントがなかったからだ」

 

コストを削減し、単純に利益率を上げようとしたのが失敗でした。そこで、今度は圧縮した人件費を、別のところに使うことを考えます。

 売上  500万円
 原価  200万円(原価率40%)
 人件費 100万円
 他経費 100万円
 利益  100万円

圧縮した人件費を原価に回しました。料理の腕はホワイト店と大差ありませんでしたが、素材のよさは味に直結するもの。安くて美味しいと評判になり、お店は大繁盛。結果、倍の規模に成長することに成功したのでした。

 売上 1000万円
 原価  400万円(原価率40%)
 人件費 200万円
 他経費 200万円
 利益  200万円

 

そして、同じ値段で美味しいお店が近隣にあれば、人はそちらに流れます。ライバルに敗れたホワイト店は、あえなく潰れてしまったのでした。

 

ブラックな甘い汁

いかがでしょう。今回は圧縮した人件費を原価に充てるという戦略を紹介しましたが、もちろん単純に価格を下げるという戦略もあります。同じ味で500円の店と400円の店があったら、普通は後者に流れるでしょうからね。

ここで言いたいことは「値段の割に品質のよいもの(費用対効果がよいもの)」は、人件費を不当に削減することで実現可能だということです。もちろん純粋な企業努力で実現している場合もあるので、費用対効果がいい=ブラックということにはなりませんが、こういうことは間違いなくあり得ます。

 

悪い経営者はこう考えていると思います。
「いくら悪い評判が立とうが、費用対効果さえよければ客は食いつく」

 

さすがに評判が悪くなりすぎて人が雇えなくなったら困るでしょうが、バイトだったらそこまで気にしないかもしれないし、極論を言えば周りのホワイト店がブラック店のあおりを受けて全部潰れてしまったら、求職者は嫌でもブラック店で働くしかなくなります。

逆に消費者がブラック店を利用しなければブラック店は淘汰され、ホワイト店が生き残るはずです。ホワイト店しかなくなれば、そもそも「ブラック企業に入りたくない」なんてことを考える必要すらなく、就労環境ははるかによくなることでしょう。

 

雇用は移転する

ブラック企業とはいえ、倒産したら失業者が大量に出るのでは?という意見もあると思います。確かに一時的にはそうかもしれませんが、ある程度のスパンで見れば、そうでもないのではないでしょうか。

例えば車を作る会社、A~E社があったとして、A社はブラック、B~E社はホワイトだったとします。

で、ある日A社が倒産したとしたら、どうなるでしょう。これまでA社の車に乗ってた人は、A社が潰れたら車に乗らなくなるでしょうか?残念な気持ちはあるかもしれませんが、そもそも交通手段として車が必要だから乗っているわけで、やむを得ず他社の車に乗り換えるという人が大半だと思います。

そうするとB~E社はこれまでより多くの車が売れるようになり、多くの車を作る必要が出てくるので、いろんなところで人手が不足するはずです。結果としてB~E社で新たな雇用が生まれ、ホワイト企業に就職できる人が増えることになります。

消費者にとっても、実際乗ってみたら意外とB社の車のほうがよかった、なんてこともあるかもしれません。

 

ホワイトな未来へ

結局のところ、ブラック企業を生み出しているのは消費者です。自分に直接影響があるかに関わらず、国民全員が「ブラック企業は使わない」ということで一致団結すれば、巡り巡って国民全員がいい環境で就労できるはずです。

どうやってブラック企業であることを炙り出すかという大きな問題があるので、現実的には簡単ではないでしょうが、少なくともA社でこんな酷いことがあったみたいなニュースが流れた時に、それを機に売上が減少して倒産したら、それがまたニュースになって、少しずつではありますが「悪いことはできない」という流れになっていくでしょう。特に今はSNSなどですぐ情報が拡散される時代ですから、隠すのも容易ではないはずです。

しかし、現実的にはどこも倒産していない。それは繰り返しになりますが「社員にとって悪い会社」であることが「消費者にとってよい会社」になる場合があるからです。消費者側としてはつい使ってしまいたくなりますが、世の中を変えていくためには、少しだけ我慢してみるのもいいかもしれません。

 

今回は就労をテーマに書きましたので、就労環境が既に安定している人にはあまり関係ない話かもしれません。しかし、そんなこと関係なく、そもそも人を苦しめている人間が巨額の富を手にして大きい顔をしているのって気に入らなくないですか?

いきなり100%やめる必要はないと思います。利用頻度を半分にするだけでも売上は半分。突然売上が半分になり、それがある程度の期間続いたら、たいていの業者はやっていけません。「我々はあなたがたを監視してますよ」という姿勢を見せることが、ホワイトな未来へつながっていくのではないでしょうか。

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